2010-简约版练习
の水差の水はたちまち温み,博士の額には汗が拭われるそばから微かに滲んだ。
死に瀕している荘厳な顔は,強い髯の中に埋もれている。深い皺も,高い倨傲な鼻も,落ち窪んだ眼窩の底に微光を放っている瞳も,大地の起伏を圧縮したように静かである。近づいている死の兆の,もっとも明瞭に刻まれた部分がある。それは胸の上に置かれた手である。弾力を失った静脈が,手の甲を縦横に走っている。汚斑の多い白い皮膚がこの静脈の形を,無力に,しかし正確になぞっている。この形骸だけになった手の内部には,生命はすでに喪われているように思われる。
「もう一度見せてくれ。もう一度別れを言わせてくれ」
博士は痰の詰まった聴きとりにくい声でそう言った。N医師は,言葉を聴き分けずとも,博士の言わんとしているところが分かる。
彼は病褥の傍らの椅子を立った。壁ぎわに寄せてある台座のところへ行く。台座の下には四輪の小さな車がある。彫像が押されると,車は絨毯の上を音もなく回りだす。Nは自分の坐っていた椅子を除けて,その位置に車を止めた。R博士は瞳をめぐらしてそのほうを見た。
台座の上に立っているのは大理石のアフロディテの像である。十年前,ロ-マ近郊の発掘に当って,博士がこの像を発見した。その発見は近代の奇蹟であった。像は羅馬国立美術館に納められた。十年来,週に一度,この大理石像に会うために老博士は美術館へ通った。病の篤いことをきいて,美術館は特例をもって,像に最後の対面をさせるために,それを博士の病室へ運んだのである。
室内の薄明のなかに,アフロディテの像は白い模糊たる形態を泛べている。右腕が失われているほかは,ほとんど完全に原型を伝えている。その目は羞恥のために半ば伏せられているが,それがあたかも病床の博士を,冷ややかに見下ろしているように見えるのである。
博士は,手をさしのべて,あわただしく本の頁をめくるような仕草をした。死がせきたてているので,日ごろの落ち着いた挙措は失われている。かろうじてこう言った。
「私の著書を,私の著書を……」
N博士はモロッコ革にフィレンツェの捺金の細工を施した大部の一冊をとり上げた。
「読んでくれ,百七十頁だ,早く」
N博士は若々しい声で,日覆のわきから洩れる光の下へ,ひらいた頁をさし出して,読みはじめた。
『…………。
かくてわがアフロディテについて語る段階に至ったことは,著者の無上の悦びである。これこそは二十世紀に入って発見せられた希臘古典時代の唯一の傑作であり,優雅と品格において,クニドスのアフロディテに匹敵するものである。比類なき優婉は,一抹の神秘と悲哀を宿し,神聖と官能のえもいわれぬ一致は,プラクシテレスの原作たるを疑わしめない。これは羅馬時代の最上の傑作でありまた,今のところ,残された唯一の傑作である。この無上の美については,ただわが目に見た者だけがこれを知り,いかなる言葉をもってしても,それが与える感動を他人に伝えることは不可能である。しかもロ-マの古い土中からこれを発見し,近代の人間にして最初にこの至上の美に直面した者の戦慄を想像されたい。
さて像の高さは,二 一七メ-トル……』
「そこまででいい。そこまででいい」
R博士は濁った叫び声をあげて,手をふって,朗読を中断した。
「次はS博士の著書を」
Nは書架を探して,とりだした一冊の埃を部屋の一隅で払った。日覆のはじから洩れる光は埃を舞わせた。
「儂のアフロディテの章を読むのだ。早く」
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